2022年6月26日
国立劇場・小劇場に行って参りました。
当日の公演は『文楽若手会』
その名の通り、若手の皆様で構成される文楽の公演です。
演目
絵本太功記
夕顔棚の段(十段目)
尼ヶ崎の段(十段目)
摂州合邦辻
合邦住家の段(下の巻)
二人禿

まとめ
『若手会』とは言うものの、本公演に勝るとも劣らない迫力でした。
特に摂州合邦辻のクライマックスは圧巻の語り口。
豊竹靖太夫さんの叫びが、一瞬竹本織太夫さんに見えたんですよね。
3000円とは思えない程、満足感が高かったので
次回(来年?)の公演も観に行きたいですね。
絵本太功記
多くの武将が戦乱にあけくれる戦国時代、日本の覇権を握った豊臣秀吉(作品中では真柴久吉)や、秀吉と敵対する明智光秀(作品中では武智光秀)を中心とする武将たちの姿を描いた作品です。京都の本能寺で主君織田信長(作品中では尾田春長)を討った光秀の、本能寺の変の前日六月一日の謀反の決意から、最期までの十三日間を描いています。
読本『絵本太閤記』もとにした、近松柳・近松湖水軒・近松千葉軒による合作で、初演は寛政十一年(1799)、大阪・豊竹座です。
ーここまでのあらすじー
配布資料より
武智光秀は、神社仏閣を焼き討ちにするなどの横暴なふるまいを重ねる主君尾田春長を諫めますが、春長は耳を貸しません。ついに謀反を決意した光秀は、天正十年(1582)六月二日、本能寺にいる春長を襲撃して自害させました。
それを知った真柴久吉は、備中高松城で続けていた戦を和睦にもちこみ、光秀討伐に出発します。光秀の母さつきは、主君に反逆した息子を赦せず、一人、光秀のもとを去っていきました。
登場人物
武智光秀 妻・操 母・さつき
武智十次郎(光秀の子) 初菊(十次郎の許嫁)
旅僧/真柴秀吉 加藤正清(清正)
夕顔棚の段
さつきが尼ヶ崎で隠れ住んでいる家を、光秀の妻操と、光秀の息子十次郎の許嫁初菊が訪れます。ご機嫌伺いにやって来た二人に対し、気丈なさつきは、姑孝行よりも夫に付き従い留守を預かるべきだと、二人に来訪を喜ぶ様子を見せません。
そこへ一人の旅の僧侶がやってきて一夜の宿を求めます。密かに旅僧を追って来た光秀に気付いたさつきは、何か思いついたらしく、僧に風呂を沸かして入るように勧めます。
続いて訪れた十次郎は、さつきに父光秀に出陣する許しを求めると、さつきは出陣前に初菊と祝言を挙げることを提案します。初菊は喜び、さっそく準備にとりかかります。
配布資料より
『南無妙法蓮華経』の合唱から始まる演出が印象的でした。
尼ヶ崎の段(前)
十次郎は密かに母と祖母に別れを告げ、物思いに沈んでいます。討死を覚悟しているため、祝言を挙げない方が初菊のためではないかとも考えていました。隣の部屋で様子を窺っていた初菊は出陣を思いとどまるよう懇願しますが、十次郎に急かされて泣く泣く出陣の準備を手伝います。
準備が整い、夫婦固めの盃が交わされますが、戦を告げる太鼓の音が鳴り響くと、別れを惜しむ間もなく十次郎は出陣していきます。孫の覚悟を察して祝言を挙げさせたさつきも、操や初菊と同様に泣き伏す他ありませんでした。
配布資料より
前半は十次郎が主役です。
出陣の直前、祝言で飲む酒を「これが別れの盃か」と泣きながら飲む十次郎。
出陣の太鼓が鳴り、すがりつく初菊を振り払う十次郎。そして切ない表情をする初菊。
戦国の時代は、こんなやりとりが多分にあったんでしょうねえ。
尼ヶ崎の段(後)
自分の身を犠牲として主殺しを責めるさつき。
さつきの死を前、改心を促す操。
操の要求を拒否する光秀。
三者三様。それぞれの正義が見えた場面でした。
十次郎は死の間際に初菊と抱き合うことができたので、
本懐を遂げたと言ってもいいのではないでしょうか。
光秀は非常に冷酷に見えますが、『主人を討ってしまったのだから自分がやるしかない』という決意の裏返しでもあるかと思います。
久吉が登場した際切りかかろうとする光秀は、ちょっと小物感が…
息子の罪を一身に背負うさつきに、母の偉大さを見ました。
摂州合邦辻
河内国(現在の大阪府)の城主高安家に奉公していたお辻は、若くして城主高安通俊の後妻となり、玉手御前と呼ばれています。通俊には次郎丸と俊徳丸の二人の息子があり、後継者には弟ながら俊徳丸が選ばれていました。玉手御前は俊徳丸に恋をし、ある時酒を飲ませて心を打ち明けますが、拒絶されます。
配布資料より
俊徳丸はやがて病におかされ、容貌が醜く変わって盲目となった事を恥じ、家督を兄に譲ると書き残して行方をくらませます。玉手御前もその後を追って館を出るのでした。
登場人物
合邦道心 合邦女房 玉手御前/お辻
高安俊徳丸 浅香姫(俊徳丸許嫁) 入平
合邦住家の段(中)
春の彼岸の頃・玉手御前の父合邦道心の庵室では、人々を招き百万遍念仏が行われています。義理の息子である俊徳丸に不義をしかけた玉手御前は俊徳に処罰されたはずと、命日も判らぬまま夫婦で娘の供養をしていました。
合邦住家の段(前)
死んだと思い込んでいた玉手御前が門口に現れます。自分たち老夫婦を援助してくれた通俊への義理を立て、合邦は冷たくあしらいます。しかし、娘を思う女房の頼みに、ついに家へ入れるのでした。
女房は娘との再会を喜びます。不義をしかけたという事の真相を尋ねると、玉手御前は公然と俊徳丸への恋を打ち明けます。さすがに女房も呆れ果て、合邦も玉手御前を成敗しようとします。怒り狂う夫を必死で宥め、女房は玉手御前を説得するため奥へ連れて行くのでした。
配布資料より
あっけらかんとしている玉手御前と激怒する合邦。
これすらもクライマックスの伏線になっているとは、いやはや恐れ入ります。
こいつは本物の悪女だなと、すっかり騙されました。
合邦住家の段(後)
玉手御前は悪女だったんだなあと思いながら観てましたが
最後の最後で大どんでん返し!
自分が悪人となることを一手に引き受けることで、事件を解決に導く姿に感動しました。
特に絶命する直前に両親と抱き合う場面は、涙なくしては観られないです。
『寅の年・寅の月・寅の日・寅の刻』に生まれた女の肝臓の生き血を…という件があります。
これって落語『肝つぶし』の原型かな?と考えが浮かびましたが、どうでしょうか。
二人禿
京の遊郭、島原。可憐な振袖姿の禿が二人、「禿かうろとたくさんさうに、言うておくれな、エヽ憂きの廓、外でなぶられ内ではせかれ、ほんに身も代の内緒の…」と廓勤めの辛さを嘆きつつ踊ります。
二人は春風に吹かれながら数え唄に合わせて羽根つきに興じます。そのうちに憂さも晴れ、「…さて面白い花の廓、心ごころで楽しまん」と気を取り直す禿たち。華やかな花街の風情が漂います。
配布資料より
『ふたりはげ』ではなく『ににんかむろ』
振袖を着た二人の少女が華やかな舞台で楽しげに遊んでいました。
笛・摺鉦・太鼓・鼓の音が聞こえたので、お囃子が通ったのでしょうか。
文楽の傾向として、重い話の後はクールダウンで
華やかな話を入れて終幕というパターンなのかな?と感じました。
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