本朝廿四孝~文楽サスペンス劇場

2022年12月10日
国立劇場へ文楽を鑑賞しに行ってきました。
当日の公演は『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』です。

本朝廿四孝について

 戦国大名たちが虚々実々の駆け引きを重ねる大作『本朝廿四孝』。
その二段目、四段目を上演し、将軍足利義晴あしかがよしはる暗殺事件を巡る武田・長尾(上杉)両家の対応を並列的に描きます。また、平成四年(1992)以来30年ぶりとなる「道三最後の段」の上演により、諸将の思惑が絡み合うこの作品の全体像を浮き彫りにします。

別売りパンフレットより

演目

二段目
・信玄館の段
・村上義清上使の段
・勝頼切腹の段
・信玄物語の段

四段目
・景勝上使の段
・鉄砲渡しの段
・十種香の段
・奥庭狐火の段
・道三最後の段

まとめ

将軍足利良晴を暗殺した下手人は誰なのか?
ここから物語が始まるサスペンスです。

上演時間が4時間に迫る長丁場でしたが、
謎解き要素と、節々にくすぐりがあったので
飽きることなく楽しむことができました。

今回の公演は場面転換が多いので
一人ひとり、太夫さんの語りをじっくり聴けたのもよかったです。

織大夫さんの切腹は、今回も素晴らしかったですし
太夫さん・咲寿太夫さんのコミカルな場面も素晴らしかった。
太夫さん皆さんにスポットが当たる公演もいいものですね!

二段目

主な登場人物

武田勝頼(=板垣の子息) 母・常盤井御前 許嫁・濡衣
板垣兵部 武田信玄 蓑作(=本物の勝頼)
村上義清

信玄館の段

 武田信玄の館では、飄逸ひょういつな奴たちの噂話で、都での将軍暗殺と、その犯人探索が捗らないために武田家の嗣子・勝頼が切腹を迫られているという危惧が物語られます。

別売りパンフレットより

二人の奴がコミカルに、あらすじを語ってくれます。
ふすまには武田菱があり、武田の本拠ということがわかります。

村上義清上使の段

 主人で恋仲でもある勝頼の助命嘆願のため諏訪明神へ参詣に行き、「十七歳の男息災延命」とある鈴の綱を得た腰元濡衣。勝頼の母の常磐井御前とともに、束の間の喜びを分かち合います。そこに登場したのは、勝頼救済の手段を求めて出かけている家老の板垣兵部いたがきひょうぶではなく、村上義清むらかみよしきよ
武田家と積年の因縁がある北条家の家臣です。今は将軍家名代としての来訪で、勝頼の首を差し出すよう、居丈高に迫ります。

別売りパンフレットより

本作品で村上義清は北条氏時の家臣という設定。
時間を短くしてでも猶予をもらいたい常盤井御前の、子を思う気持ちが儚いです。

御馳走には信濃蕎麦、御手打ちが我等好物。

なかなかウィットに富んだセリフですね。

勝頼切腹の段

 義清が与えたのは、朝顔が萎むまでのわずかな猶予。勝頼その人もはかない風情を湛えています。貴公子の品格はある一方で、武将たる資質の欠如は如何ともしがたい。それゆえ立場を捨て、濡衣との幸せを大切ににして出奔するよう勧める常盤井御前と、せめて最期ばかりは武士らしく死に赴こうとする勝頼。母と子の相反する想いが描かれます。
ついに勝頼は説得されて逃げようとするも、義清に見付かり、自害に及びます。

別売りパンフレットより

義清に見つかった刹那に切腹していた勝頼。
最期を迎える瞬間に少しでも長く寄り添いたい常盤井御前と濡衣。
それを押しのけ早々に介錯をする義清と、対照的な三名が印象的でした。

信玄物語の段

 遅れて兵部の駕籠の到着。ここからは、勝頼の身代わりとして連れてこられた蓑作の変化が面白く描かれます。義清が非情な結果を告げて帰還し、自分が身替わりに殺されるところであったと悟る蓑作。その口を封じようとする兵部との立廻り、やがて蓑作は、俊敏なる本性を顕します。
続いて、信玄の登場。兵部の成敗を経て武田家の秘事が明らかになり、蓑作が真の勝頼として親子の対面を果たし、老獪な父との丁々発止のやり取りを重ねます。父の信玄同様、大乱の収捨への決意を胸に、勝頼は引き続き蓑作の姿に身をやつします。一方、兵部を誅した信玄の物語。家老の姦計を知りつつ、十七年も素知らぬ態を通した深謀の将たる面目躍如です。
「物のあやめもなきつまに似たる菖蒲あやめ杜若かきつばた、花紫の明け方は…」様々な花の名前を織り込んだ「花尽くし」の祝章によって、はかない最期を遂げた勝頼(兵部の子息)を悼む女性たちの嘆きが表現されます。

別売りパンフレットより

なぜ『勝頼』が切腹する際にも信玄が出てこなかったのか?がここで判明します。
さらに、将軍暗殺の犯人が見つかっていないのに、自分が本物の勝頼だと名乗ると幕府の嫌疑を受けてしまうので、しばらくは『蓑作』のままでと意見する本物の勝頼でした。

四段目

主な登場人物

長尾謙信 長尾景勝
蓑作(=武田勝頼) 八重垣姫
白須加六郎 原小文治
山本勘助
花守り関兵衛(=斎藤道三) 腰元濡衣

景勝上使の段

 舞台は変わって、長尾謙信の館。武田家同様、長尾家も将軍殺害犯探索が捗らず、嗣子・景勝の処分を謙信に迫るのは、何と景勝その人。そこに登場したのは、奇怪な風体の花守り関兵衛。関兵衛が謙信に引き合わせたのは正真正銘の勝頼(蓑作)、それを不敵にも登用する謙信。

自分を早く討てと言う景勝と、困惑する越後の虎。
蓑作へ「そなたは武田勝頼!」と言いきってしまう景勝に、ちょっと笑えました。

鉄砲渡しの段

 引き続き、関兵衛と謙信の対決に移ります。敵方の嗣子・勝頼を見出した関兵衛を見込み、謙信は物言わぬ鉄砲の詮議を命じます。謎に謎を重ねつつ、物語は展開します。

牢に入れて拷問しても、何も言わない鉄砲。
処置を関兵衛に任せる!?(;’∀’)

十種香の段

 場面は移り、権謀とは無縁で燃えるような恋心を体現する八重垣姫の存在を際立てるのが、運命の桎梏、犠牲を体現してきた濡衣です。亡き勝頼を弔って焚かれる反魂香の中、二人の女性の間に登場するのが当の勝頼…優美な曲調に載せて描かれる絢爛たる恋物語も、諸大名の深謀という渦の中に繰り広げられるのです。

八重垣姫が見ている勝頼の肖像画が本物で、折り目があるところもリアリティがありました。
濡衣の鳴き声で八重垣姫が蓑作が勝頼と見抜きました。

謙信が蓑作を使者に出し、更に討手を差し向けた理由は結末で判明します。

奥庭狐火の段

 奥庭に出て、前途の不安に途方にくれる八重垣姫が目にした諏訪法性の兜ー諏訪明神の神通を持ち、武田・長尾両家の不和の種として将軍家にも咎められた重宝。その兜が神秘的な光を以て奇瑞を起こします。

ここは見ごたえありました。
まず、八重垣姫の変身!一瞬で狐の着物になる瞬間は拍手喝采です。
そして兜を持ち、狐を従え走っていく姿は圧巻です。

八重垣姫が去った後、手弱女御前が出て来ますが…

道三最後の段

 八重垣姫が去った御殿では、関兵衛が将軍の奥方・手弱女御前を殺害。景勝らに取り囲まれ、将軍暗殺の張本人、天下掌握を目論む斎藤道三の本性を顕します。しかし、武田方の知将・山本勘助によって、道三が手弱女御前と思って殺したのが道三の娘濡衣であると判明し、謙信の放つ矢に道三は憤死。
諏訪法性の兜は武田家へ戻され、長らく敵対していた武田・長尾の両雄が天下静謐のために手を携えるという。壮大な物語の締め括りを迎えるのです。

武田の軍師・山本勘助がここで登場。

30年以上名前を隠していた斎藤道三を見破っており
道三をあぶり出すため、長尾・武田の諍いをも計略に入れ
濡衣を手弱女御前の替え玉にする知略。

さすが武田家の頭脳といったところでしょうか。

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