加賀見山旧錦絵2/13~負の感情が昇華される瞬間

2022年2月13日
国立劇場にて、文楽・『加賀見山旧錦絵』を現地鑑賞。
『かがみやまこきょうのにしきえ』と読みます。

『黒田騒動』・『伊達騒動』と並ぶ江戸時代の三大お家騒動のひとつ、加賀騒動を題材にした作品です。
2月5日開幕予定でしたが、諸事情によりこの日が事実上の初日となりました。

演目

草履打ちの段(六段目)
廊下の段(七段目)
長局の段(七段目)
奥庭の段(七段目)

加賀見山旧錦絵

 お家騒動を描き、複雑に入り組んだ後世の作品です。今回は、”女忠臣蔵”とも呼ばれ、召使お初が主人尾上の仇を討つ六、七段目の物語を中心に、宮仕えに苦労する人々の心境を描いた場面を上演します。

別売りパンフレットより

まとめ

すばらしい舞台でした!
皆さん鬱憤が溜まってたんでしょうね…演者・客席・そして劇場の方も。

尾上の忍耐は、まるで幕が開かなかった期間を象徴するかのようです。
それを織太夫さんが、お初の爆発する感情に昇華されていたような気がします。
結論:竹本織太夫は素晴らしい(語彙力…

劇中、仮名手本忠臣蔵の判官と師直のお話が出ました。
『女版』の忠臣蔵と呼ばれているあたり、繋がりがあるんですねー。

草履打ちの段

 奥向きの女中の元締めであり、御殿内の規律をつかさどるつぼね岩藤いわふじは、尾上おのえが裕福な町人の娘であることをあてこすります。

 尾上は行儀見習いとして入った大名家で、御殿の基盤がない中で中老職という出世ができた。幸運ではあるが不釣り合いで不安定な立場であり、岩藤の理不尽な干渉にひたすら耐え忍びます。

 忍従に忍従を重ね、岩藤から打擲ちょうちゃくされた草履を懐中して息を詰める姿は、感情を殺し続けたこの女性のその後の運命にもつながります。

別売りパンフレットより抜粋

人間国宝・豊竹咲太夫さんの岩藤がとても憎たらしくて…。
特に草履で打擲する画は、涙なくしては語れないですね(;’∀’)
それに勝るとも劣らない織太夫さんの尾上もすばらしかったです。

廊下の段

 御家横領を目論む岩藤と弾正だんじょうの謀議、尾上やお初に対する岩藤の仕打ちの魂胆が明かされます。それを息をひそめて立ち聞くお初…家中の暗雲が、高まる緊張感とともに垂れ込みます。

別売りパンフレットより抜粋

尾上に続いてお初にも理不尽な干渉をする岩藤。
江戸時代はこのような事が横行していたのかと考えると、やるせないですね。
御家を我が物にしようとする、岩藤と弾正の面持ちが悪魔に見えてきました。

長局の段(前)

 お初は浄瑠璃の『仮名手本忠臣蔵』の話を持ちだし、高師直こうのもろなおに辱められた塩谷判官の刃傷沙汰をどう思うかと尋ねました。判官の行動は尤もと言う尾上に、お初は残された塩谷家の人々の不幸を語り、短慮を起こさぬよう、それとなく尾上を諫めるのでした。

別売りパンフレットより抜粋

お初が神棚に燈明を上げたり薬を煎じる間、ふすま一枚隔て尾上が遺書を書く場面はとても緊迫感があります。と同時に、尾上の死に対する覚悟が垣間見えました。

長局の段(後)

 場面が戸外に変わり、胸騒ぎの収まらぬお初は、ついに言い付けを破って尾上の文を読みます。取って返せば、事切れた主人の姿。絶叫するお初。つい先ほどの尾上との会話が胸の去来します。「夜もはや初夜を告げていく」決意と因縁の草履を胸に、お初は復讐へと立ち上がります。

別売りパンフレットより抜粋

尾上の遺書を見たお初が狂乱して踵を返す。
そして亡骸を見て発狂→密書を見つけ復讐を決意する様子は心を打たれました。
こちらも織太夫さんの語りです。圧巻!

仮名手本忠臣蔵を引き合いに出し、主人の間違いは止められましたが、自害を止められなかったお初の心中は察するに余りありますね…

奥庭の段

 非業の死を遂げた主人の仇討を期すお初と、悪事ながら目前に迫った御家横領に一心の岩藤。追うものと追われるものは不気味な静けさをたたえて出会います。やがてお初の斜弾と、さらに続く立廻り。ついにお初は仇を討ち、晴れて二代尾上を名を許されるのでした。

別売りパンフレットより抜粋

ついに対決!手に汗握る立廻り!
尾上の懐刀で岩藤を討ち取る場面では自然と涙が。
仇討ち本懐を遂げた、お初役・咲寿太夫さんがとても格好良かったです。

事情を察し、その場でお初を中老職に出世・尾上を名乗らせる安田庄司の采配もあっぱれでした。

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