仮名手本忠臣蔵12/11~鬼気迫る判官と由良助の怒り

2021年12月11日
国立劇場にて、文楽・仮名手本忠臣蔵を現地鑑賞。
講談の『赤穂義士伝』は聴いていますが、『仮名手本忠臣蔵』は初鑑賞です。

演目

桃井館本蔵松切の段(二段目)
下馬先進物の段(三段目)
殿中刃傷の段(三段目)
塩谷判官切腹の段(四段目)
城明け渡しの段(四段目)
道行旅路の嫁入り(八段目)

まとめ

凄まじい公演でした。
人形に魂が宿り、人間がそこにいるかのような感覚に。
忠臣蔵の世界に吸い込まれていき、余韻たっぷりの公演でとても満足です。

考えてみれば、『赤穂義士伝』では塩谷判官(浅野内匠頭)が「切腹した」という言及はありますが、実際の切腹場面がないので、補完する意味でも貴重な体験に。
判官切腹の張り詰めた空気は、時間が4倍にも5倍にも長く感じました(笑)

今後は、講談・落語だけでなく、多角的に観ていきたいですね。
今回カットされた、おかる勘平のお話もどこかで観られるといいな。

桃井館本蔵松切の段

前日、高師直から侮辱された桃井若狭之助。
「お家断絶になってもいいから斬り捨てる」
家老の加古川本蔵に、こう打ち明けるところから話は始まります。

とにかく激怒している若狭之助に対し、本蔵の老獪さが際立ちます。
無念の思いを晴らせよと、庭にある松の枝を斬り落とす。
しかし、若狭之助がいなくなるや否や、早馬を走らせ向かった先は…

下馬先進物の段

なかなか目録を受け取らない伴内へ、袖の下を渡したら態度が変わる様子が滑稽で面白かったです。
いつの時代も、お金がものを言いますね(笑)

高師直と家来の鷺坂伴内が登城しているところへ、加古川本蔵がやってきます。
前日の事があるので二人は警戒していましたが、賄賂を持ってきたのだとわかると、途端に手のひらを返し場内へ招くのでした。

殿中刃傷の段

賄賂を受け取った手前、若狭之助に平伏した師直。
物陰から見守る本蔵がちょっと微笑ましいですね。

その本蔵が、判官の刃傷を止めてしまうのは何の因果なのでしょうか。

師直は若狭之助がだめなら判官へ。
奥方の顔世御前への横恋慕を拒否されたため、憎悪の矛先が向いてしまい…

刀を抜こうとする判官を「殿中だ!」と止めた師直の高笑いが、いかにも怪人の様相。

「おのれ師直真っ二つ。放せ本蔵放しやれ」
判官の気迫と、怯える師直のラストが印象に残りました。

塩谷判官切腹の段

「ヤレ由良助、待ちかねたわいやい」
「ハハア、御存生の御尊顔を拝し、身にとって何ほどか」
「ヲヲ、我も満足満足。定めて子細聞いたであろう。聞いたか聞いたか。エエ無念。口惜しいわやい」
「ハハア、委細承知仕る。この期に及び申し上ぐる詞もなし。ただ御最後の尋常を願はしう存じまする」
「ヲヲ、言うには及ぶ」
「由良助、この九寸五分は汝への形見。我が鬱憤を晴らさせよ」

上使から『領地没収・切腹』の宣告にも動じなかった判官は、すでに死装束を身にまとっています。
鬼気迫る切腹、そして息絶える直前、大星由良助とのやりとりは圧巻でした。

上使の一人である薬師寺の横暴な態度に、斬りかかろうとする息子・力也を止める由良助。
怒りはあれど、一線を越えてはならないという沈着さも併せ持っていました。

織太夫が語り紡ぎ出して行く判官切腹の段は、決して予定調和ではない筋書きのないドラマなんですよ。物語が今ここで生まれているんですよ。

由良助が来るかどうかは襖が踏み開かれるまでわからないんですよ。そのヒリヒリしたリアリティがあるんですよ。だから力弥の「国家老 大星由良助 ただいま到着仕りました」で思わずウルっとくるわけですね。

力弥の心からの叫びがあるから、 石堂の「ナニ 国家老 由良助とな 最期の対面苦しゅうない。近う。」と完璧に受けられるわけですなぁ…

竹本織太夫さんのTwitterより

城明け渡しの段

個人的にはこの場面が一番印象に残りました。
判官の亡骸が駕籠で送られた後、順に屋敷から立ち去る家臣たち。

落胆したり、呆然としたり、怒りをあらわにしたり。
ひとりひとりの感情が露骨に現れ、家臣の無念が伝わってきます。

そして、由良助一人。
意気消沈し屋敷を出た由良助が、提灯から浅野家の家紋を斬り取り遠ざかる。
ラストで形見の刀を手に、無念を晴らす決意をする見栄に圧倒されました。

この場面は『ぱったと睨んで』しか台詞がなく、動きだけで怒りを表現。
それだけに、由良助の怒りが直接伝わってきました。

道行旅路の嫁入り

加古川本蔵の娘・小浪と、母・戸無瀬が山科にいる大星力也へ嫁入りする道中。

ここまでの張り詰めた空気とは一変。
賑やかな場面で、クールダウンして終了です。

太夫・三味線が各5名ずつ出演。
一糸乱れぬ三味線の演奏と、太夫の皆さんの語りはお見事でした。

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