心中天網島2/4~避けられぬ運命

2023年2月4日
国立劇場・令和5年度文楽2月公演第一部へ行ってきました。

当日の公演は『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』
運よく初日公演のチケットが取れました。
今年の文楽公演は、近松門左衛門の名作を特集していくようです。

心中天網島について

 紙屋かみや治兵衛じへえと遊女の紀伊国屋きのくにや小春こはるが、大坂・網島の大長寺だいちょうじで心中した事件を基に、書き下ろされました。享保五年(1720)竹本座初演。この時、近松門左衛門は六十八歳です。事件のあった地名に、『老子ろうし』の「天網恢恢てんもうかいかいにして漏らさず」という一節を利かせた外題の妙、構成の隙のなさ、性格の細部に亘る登場人物の描写、洗練された筆致と、円熟期の近松の境地を示した代表作の一つです。

パンフレットより

演目

北新地川庄の段
天満紙屋内の段
大和屋の段
道行名残の橋づくし

まとめ

主な舞台が天満と曽根崎新地ということで
場所が想像できてよかったです。

個人的には、文楽と言えば!心中ものだと思ってます。
もともとバットエンドが決まっているので
笑えないよなあと感じてました。

たぶらかした小春と、妻子がありながらも乗ってしまった治兵衛。
一番悪いのはこの二人なのでしょうけども、
そこに女房の義理と、舅五左衛門の至極真っ当な主張。

そして、横恋慕から小春を身受けしようとする伝兵衛と
人間関係が複雑に絡み合っていました。

最後は八方塞がりで心中に追い込まれてしまった二人ですが
何とか他の道はなかったのか?と考えさせられる作品でした。

二人の最期の地、大長寺にいつか行ってみたいですね。

主な登場人物

紙屋治兵衛 女房おさん 粉屋孫右衛門(治兵衛の兄)
勘太郎(治兵衛の倅) お末(治兵衛の娘) 丁稚三太郎
おさんの母 五左衛門(おさんの父)

紀の国屋小春 花車
大和屋伝兵衛 五貫屋善六

北新地川庄の段(中)

 遊郭・曽根崎新地の浮き立つ雰囲気の中、深い悲しみにくれる小春の姿が映し出されます。治兵衛の商売仲間の太兵衛たへえ善六ぜんろくが俄仕立ての浄瑠璃で治兵衛を嘲弄ちょうろうする「口三味線」のくだり
侍に扮した治兵衛の兄・孫右衛門に二人が追い払われると、孫右衛門と死の影を負った小春とのやり取りが続きます。

太兵衛を『毛虫客』と言い放つ小春(笑)

その太兵衛は、侍が来るまでほうきを三味線にするなど強気ですが
(野澤勝平さんとの息がピッタリでした!)
すぐにつまみ出される、小者感漂う引っ込み方でした。

北新地川庄の段(切)

 「魂抜けてとぼとぼうかうか」心中の覚悟を胸に、逸る思いの治兵衛が小春の元を訪れます。外から様子を窺うと、小春は孫右衛門に心中を避けたいと吐露していました。「親方にかれて逢瀬おうせも絶え」あまり心情を表に出さない小春の陰翳いんえいが窺えます。ここから治兵衛の激情が劇的に展開します。昔からの馴染みの小春に裏切られた怒り、無念さ、兄の孫兵衛に対して不面目を恥じる思い、兄に諭されての後悔や自責が、再び怒りとなって小春にぶつけられます。孫右衛門は、小春の懐中にあった書状を見て、治兵衛の女房おさんからの「心中を思い止まってほしい」という依頼により偽りの愛想尽かしをした小春の本心を知ります。小春の裏切りに憤りながらも未練を断てない治兵衛、義理を通すため悲しみを必死で押し隠す小春、弟の身を案じる一方で小春の立場をおもんばかる孫右衛門。三者三様の立場と感情が交錯する段切りです。

治兵衛は頭に血が昇るタイプなのか!?
脇差を窓から突き刺すというのは結構な短慮ですね(;’∀’)

手を縛られている治兵衛を袋叩きにする太兵衛ですが
やはり侍に扮した孫右衛門に撃退され、今回も小者でした。

天満紙屋内の段(口)

 悲劇の前のひと息となる、おさんと丁稚とのやりとりに、店を切り盛りするおさんの人となりが垣間見えます。訪問した治兵衛の叔母(おさんの母)と孫兵衛から、小春が身請けされるという情報がもたらされます。

幕開け、炬燵布団に横たわり
客席に顔を向けている治兵衛がシュールでした。

誓紙を書く場面がとても細かかったです。

天満紙屋内の段(奥)

 小春の身請けを知り、無念の涙を流す治兵衛。ここから、おさんの心境の変化が新たな展開に繋がります。当初は夫の涙を喪失感によるものと嘆いて立腹しますが、小春が太兵衛に身請けされることを聞くや、おさんは小春のの自害の意思を悟ります。
そして女通しの義理を立てるため、小春を身受けするように夫に勧めるのです。「箪笥をひらりととび八丈」”着物尽くし”の哀調が、おさんの立場を浮き彫りにします。しかし、おさんの父五左衛門ござえもんの登場で事態は急転。おさんは実家に連れ戻され、治兵衛は小春との心中へ突き進むのです。

太兵衛が言いふらすと、今後の取引にも影響が出かねない。

小春の身受けはおさんから提案されたことですが
治兵衛が疑われてしまうのは不条理ですねえ…
それだけ信用がなくなっていたということなのでしょう。

完全に追い詰められてしまいましたね。

大和屋の段

 孫右衛門は、小春と治兵衛が心中の計画のために密かに合っている茶屋・大和屋を訪れますが、二人を見付けられず立ち去ります。そんな兄と兄に連れられた倅の勘太郎ー治兵衛の平穏だった家庭生活の象徴ともいうべき存在ーの姿を、治兵衛は断腸の思いで見送ります。おさんや孫右衛門など、彼を心から案じる善意の人々に囲まれながら、治兵衛は死地へと転げ行く運命を断ち切ることができないのです。こうして、川風寒く霜満つ夜の路を、小春と治兵衛は人目を忍んで歩み出すのでした。

結局兄弟は会えず。
いろいろなすれ違いを経て結末に向かっていきますが
一番不憫なのは治兵衛の子供でしょうね。

竹本咲太夫さんが療養中のため織太夫さんが代演です。
これまで観た語りとは違い、落ち着いた場面で登場。
少しずつ追い詰められていく二人を絶妙に表現されてました。

名人はどの場面でもしっかり存在感を表しますね。
鶴澤燕三さんとの掛け合いも抜群でした。

道行名残の橋づくし

 小春と治兵衛は、因縁深い蜆川しじみがわや幾つもの橋を、これまでの苦難を思いつつ渡り、最期の地・大長寺へと辿り着きます。おさんに背いた罪の呵責かしゃくさいなまれつつ、せめて死に場所を違えるため、小春は治兵衛の刃にかかり、治兵衛は水門にて首を括って、それぞれ最期を遂げるのでした。

最後の最後まで義理を通す小春と治兵衛。
心中は褒めたものではないですが、あっぱれです。

もうこの道が冥途か

あらすじの引用:文楽公演パンフレットより

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