北村薫さんのデビュー作「空飛ぶ馬」を拝読。
先日月亭天使さんとミステリー小説についてお話していた際、「円紫さんと私」シリーズをご紹介頂きました。
こちらはその第一作で、1994年発表。ヒロイン・主人公の「私」が大学生の頃の作品です。「私」と探偵役である「春桜亭円紫」師匠との人情味あふれるやりとりが心を打ちました。
5つの短編(といっても時系列はつながっていますが)となっておりますので、ひとつづつ書評を記載していこうと思います。
織部の霊
近世文学概論の加茂先生との会話の中で織部茶碗、その由来となった古田織部正重然の話になった「私」
加茂先生の「夢」と「無意識」から過去、そして叔父との思い出へ経て核心と迫っていきます。
円紫師匠が加茂先生のと「私」の話を聞いただけで謎を解明していく様子が痛快!
演目は「夢の酒」でした。
砂糖合戦
ハチ公前で偶然会った二人。
近所の喫茶店でお茶している際、後ろの三人組の女の子が気になった「私」
見ると砂糖の取り合いをしている様子。なぜそのような事をしているのかと突き詰めていくと…。
女の子の一人が見せる動物に近づいた笑顔。
そして、円紫師匠のダークな部分を見ることができました。
一見関係なさそうな、「マクベス」から謎を解明していく様子も興味深かったです。
演目は「強情灸」
胡桃の中の鳥
お友達の高岡正子さん(以下・正ちゃん)と庄司江美さん(以下・江美ちゃん)と蔵王へ旅行している時の話です。
もちろんお目当ては円紫師匠の独演会なのですが、そこに至るまでの珍道中も面白い!
正ちゃんと二人で旅をする場面が多いのですが、「二人旅」を見ているような丁々発止のやり取りがたまらないですね(´▽`)
観光地なども紹介されており、もし行くことがあれば参考にしたいと思います。
独演会を満喫し、翌日観光をしている時に出会った子供ですが、それが…。
円紫師匠も加わり謎を解いていきますが、そこには悲しい事実が。
演目は「加賀の千代」「百人坊主」「五人廻し」でした。
赤頭巾
歯医者で出逢った通称「ほくろさん」との会話で出た赤頭巾の話。
そしてもう一人のキーパーソン「森永夕美子」さんを巡り、ストーリーが展開されていきます。
円紫師匠曰く「辛い」謎。
森永さんの作品、赤ずきんを観た時に真相が浮かび上がってきます。
その時、森永さんに憧れていた「私」は…。
感情に支配されず理論で動く。今の時代にこそ必要なのかもしれないです。
全5話の中で今回の話が強烈に印象に残りました。
登場人物の心理描写が卓越で一番ミステリーっぽい作品ですね。
演目は「一眼国」
空飛ぶ馬
天の配剤(天は物事を適切に配するということ。)
上記の「赤頭巾」と同じ街で起こった心温まるクリスマスのお話です。
『円紫「どうです、人間というものも捨てたものじゃないでしょう」
その≪人間≫という言葉は、ごくごく真面目な意味で<男と女の繋がり>と言い替えることもできそうだった。』 こちらがとても印象的でした。
演目は「三味線栗毛」
まとめ
小説はあまり読んだことがなかったのですが、落語家が探偵役というのと、落語を扱っている作品という事もあり2日で読み切ってしまいました。
今回の演目の中では「強情灸」しか聴いたことなかったのですが、他のネタも聴いてから読むと、また違った発見ができるのかなと思いました。
シリーズは現在6作発表されており、勢い余ってすべて購入!次作はこれから拝読します。拙い書評にお付き合いいただきありがとうございました。
引用元・東京創元社の書籍ページ
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