伝承の会(二日目)3/11~講談師による講談師のための公演

2020年3月11日
深川江戸資料館で開催された「伝承の会(二日目)」を現地鑑賞。
東西の講談師が一堂に会する講談ファンには垂涎ものの公演です。

三日間公演すべて伺いたかったですが、終日開催という事もあり一日のみ参加となりました。

概要

この公演は『伝承』を目的とした、「令和2年度文化財保存事業(文化庁補助事業)」に助成を受け、講談協会の主催により、東西の若手、中堅講談師と講談師(講師)を結び、一年間の稽古を経て、その成果を披瀝する発表会形式の公演です。

伝承の会パンフレットより

※被瀝(ひれき)=心の中の考えをつつみかくさず、打ち明けること。

演目

()は講師名です

神田紅佳   め組の喧嘩(神田愛山)
神田紅純   山内一豊と千代(旭堂南海)
旭堂南斗   乳房榎(神田松鯉)
~休憩~
神田董花   戸田川お紺(神田翠月)
旭堂小南陵  黒田節の由来(神田紅)
田ノ中星之助 実説佐倉宗吾(神田翠月)
~休憩~
宝井琴鶴   柳生二蓋笠(一龍斎貞山)
旭堂南龍   おぼろの便り(旭堂南陵)
一龍斎貞橘  芝居の喧嘩(宝井琴調)

~休憩~
旭堂南陵先生への追悼の言葉・旭堂小南陵

神田愛山   ドキュメント講談・就活物語
宝井琴桜   与謝野晶子
一龍斎貞花  肉付きの面

まとめ

初めての会という事で、かなり浮足立ってました(;’∀’)
お会いしたかった小南陵さん・南龍さんと少しお話ができて嬉しかったです。

普段ほぼ聴く機会がない講談協会の真打の皆様の高座もよかったなあ。
今後、講談協会の方々の高座も見に行こうかな…

愛山先生に見抜かれたのかはわかりませんが、毎年来ないと…
という事を仰っておられてので、来年も時間を作って伺いたいと思います。

紅佳さん・め組の喧嘩

トップは紅佳さん。語り口に華がありますね!

登場人物は異なりますが、導入部分が相撲好きと芝居好きで一触即発になる。
そして、芝居小屋で喧嘩するという部分が「芝居の喧嘩」と共通してました。

め組の喧嘩は、実際に起こった町火消し「め組」と鳶と、力士による乱闘事件。
「火事と喧嘩は江戸の華」と象徴するような事件ですね(笑)

騒動で非常時以外に使われた半鐘が召し捕らえられ、遠島になったそうです。
この半鐘は明治になってから芝新明寺へ返還されています。

紅純さん・山内一豊と千代

節々のくすぐりがことごとく面白かったです。
馬のダイナミックな動きがあるこのネタは紅純さんに合ってるか!?

「名人は自分の事だけ、上手は人馬一体」
寛永三馬術「誉れの梅花」にもありますが、馬の気持ちを考えなければ、事は成功しないんだなあとつくづく感じました。

ウマバウアーで流鏑馬を成功させ、クライマックスでは主人だけ千代を向かいに行かせる。
盛り上げ方をよくわかってる名馬でした。

南斗さん・乳房榎

発端の「重信殺し」です。
南斗さんの高座を聴いて感じたのですが、怪談話は淡々と読む方がむしろ怖いなあと。

講師である松鯉先生もこんな感じで読んでいるのかなあ。
今年は夏の怪談興行へ行って確かめたいと思います。

「この世に命がある限り、わしの両の眼(まなこ)が光っている」
磯貝から、爺やの正介への脅迫。こんな事言われたら誰でも傀儡になってしまいますね…

ラストのどんでん返しは、結末が解っていても身震いします。

休憩
董花さん・戸田川お紺

「新吉原百人斬り」の発端で、「雪の戸田川」として落語にもなってます。
戸田川(荒川の旧支流)は近所にあるため、話の情景が浮かびました。

治郎兵衛に捨てられ落ちぶれていたお紺は、当初「お前以来ずっと独り身だった」という話を信じませんでした。
ですが、最終的に信用してしまうところは、未練があったからでしょうか。

雪の中、治郎兵衛がお紺を殺害する場面は身がすくみます。
足がおぼつかないお紺を突き落とし、必死に助かろうとするところを思いっきり殴打。

さらに殴った棒で沈めてしまうという残虐の限りを尽くした治郎兵衛。

因果応報ですが、このあとお紺の霊に会い、狂い死にしてしまう事となります…

小南陵さん・黒田節の由来

講師である紅先生の高座は予習済み。
小南陵さんはどのような高座になるかとても楽しみでした。

「自分のものにして、自分の言葉で語る」
この言葉通り、大阪弁の母里太兵衛は新鮮で、かつ違和感がなかったです。
こんな話し方だっただろうなあと想像すると楽しさが倍増しますね。

福島正則が酔いながら武勇伝を語り酒を飲ませようとする。
現代サラリーマンの管理職のようなパワハラをもろともせず、4杯の大酒を飲み干した太兵衛の見得はお見事でした。

星之助さん・実説佐倉宗吾

木内惣五郎(佐倉宗吾の本名)の子孫の話を基に、講師である翠月先生が作成されたそうです。
「佐倉義民伝」とは考察が少し異なる物語です。

宗吾が将軍家綱に直訴する場面は息が詰まりました。
一度きり、しかも一瞬しかない機会で訴状を受理してもらい、領民を救った宗吾はお見事。

堀田正信の悪政により宗吾と子息4名が処刑されましたが、その後正信は改易されることとなります。

休憩

14:30頃、10年前に発生した東日本大震災に対する黙とうが行われました。

琴鶴さん・柳生二蓋笠

以前愛山先生が「正統派の講談を受け継ぐ方」と仰っておられた琴鶴さん。

貞山先生は、着物に着替えてから稽古をされていたいそうです。
わからない事はgoogleで検索するというかわいい一面も(笑)

「面取れば親子なりけり寒稽古 負けて喜ぶ親子の試合」
柳生宗矩の三男又十郎(後の宗冬)が酒でしくじり勘当され、上戸沢の山中で修行。
そして故郷へ凱旋するまでの物語です。

終盤、宗矩と又十郎の立ち合いの場面は身が引き締まります。
悲壮な覚悟をして真槍で立ち向かう宗冬と、期待に応える又十郎のやり取りは胸を打たれました。

南龍さん・おぼろの便り

人情噺ですが流石は南龍さん。
くすぐりが面白く、重さを感じないまとまりになっていた気がします。
結末の大団円は胸が熱くなりました。

「おぼろ」とはおぼろ昆布の事。
この演目は四代目南陵先生の新作で、モデルの方がおられるそうです。

舞台は大坂。
とある昆布屋へ敦賀から来たという隠居夫婦。
この夫婦は店主へおぼろ昆布を見せ、試食・評価してもらいたいとの事でした。

このおぼろ昆布を試食した主人は思うところがあり、夫婦から話を聞く事に。
事情を尋ねると、六年前に大坂から流れてきたという一人のおぼろ職人の話を語ります…

貞橘さん・芝居の喧嘩

講師である琴調先生のお話が面白かったです。
当日いなかったので言いたい放題(笑)

定額給付金で後輩にごちそうする。
「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し口先ばかりではらわたはなし」
これを噛んでいたなど(;’∀’)

聴衆が騒いでる様子が滑稽でしたねー。
「これ、お芝居ですか?」「いえ、喧嘩です」
(゚∀゚)

最後は小拍子を持ち出しておりました。

休憩
旭堂南陵先生への追悼の言葉

南陵先生の高座映像(徂徠豆腐、長短槍試合)が流れました。

小南陵さん

「師匠から褒められた事がなかった。怒られた事も多かったが、いい思い出しかない」

「講談をもっと広げないと!」と日々奮闘されている師匠の姿を見ていた。

「千鳥亭を完成させたときも褒めてはくれなかった。
 ただ、その際講談の資料をたくさん頂いた。そうやって背中を押してくれる師匠でした」

「講談へ恩返しがしたい」という真っすぐな小南陵さん。
それを優しく見守っていたであろう南陵先生との関係に、目頭が熱くなりました。

愛山さん・就活物語

元毎日新聞記者・高田城さんの就活塾からの新作です。

「俺、就職したいんですよー」という青年ですが、何も話すことがないと言います。
が、話を聞いてみれば使えるエピソードの宝庫。

オリジナリティがあり・自分を客観視できる青年は、その事に気づいていないだけでした。
そしてオーストラリアでのごみ拾い、現地の青年と出会いと別れ。

「就職は人間力を見ている」
思わずうなずいてしまう、説得力のある高座でした。

琴桜さん・与謝野晶子

「みだれ髪」「君死にたまふことなかれ」など数々の歌集を発表している与謝野晶子。
彼女は戦前から女性の社会進出を強く訴えていたそうです。

夫の鉄幹への愛と尊敬は相当なものだったのだろうなあと感じました。
11人の子供を育て、そして詩人としても大成した与謝野晶子。

現代の社会と照らし合わせて、非常に考えさせられる一席でした。

貞花さん・肉付きの面

これもある意味敵討ちなのだろうなあと感じた一席。
お酒でしくじるお話は多々ありますが、節制は大事だと痛感します。

源五郎が作った二つに割られた能面を手本に、息子の源之助が鬼女の面を作り上げていく様子は、鬼気迫るものが。

観世の殿様に父を殺されたと言っても過言ではない源之助ですが、見事面打ちで無念を晴らした場面は痛快でした。

おまけ
当日撮影させて頂いた皆様。
旭堂小南陵さん・神田紅佳さん、旭堂南龍さん。

以前の伝承の会の立札もありました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました