義経千本桜5/22~狐と人間・親子の情愛

2022年5月22日
国立劇場へ行って参りました。
当日の公演は、文楽第一部『義経千本桜』です。

演目

伏見稲荷の段(二段目)
道行初音旅(四段目)
河連法眼館の段(四段目)

義経千本桜

 本作では、源義経主従の流転を軸に、様々なドラマが展開されます。大所が「忠なるか忠、信なるか信」という詞章から始まるように、狐忠信の活躍が、一つの主題として義経の運命に絡み合います。

別売りパンフレットより抜粋

まとめ

終演後の鳴りやまない拍手がすべてを物語っていました。
圧巻の公演でしたねえ…例によってしばらく放心状態(;’∀’)

人間国宝・桐竹勘十郎さんが操る狐忠信、竹本織太夫さんの語り。
狐とは言えども、親子の情愛はこんなに強いものなのかと感動しました。

また、クライマックスの『宙乗り』を初めて観られてよかったです。
桜の季節は終わってしまいましたが、国立劇場に満開の桜が咲き誇りました。

伏見稲荷の段

 伏見稲荷は全国の稲荷社の総本宮に当たり、稲荷の神使に狐が、佐藤忠信の姿で義経の前に現れます。義経が後白河法皇から拝領した「初音の鼓」を預かる静御前と、義経から静を託された狐忠信。因果と報恩の物語が始まるのです。

別売りパンフレットより抜粋

文楽では、武蔵坊弁慶が暴発分子として扱われているんですね。
武力に訴える弁慶、史実と正反対になっている。のでしょうか。

義経が静御前と別れる際に渡した『初音の鼓』
これが物語の中心になっていくと…

情けとは言え、木に縛り付けられた静御前を連れ去ろうとする『逸見の藤太』。
そこに颯爽と現れた佐藤忠信がかっこよかったです。

道行初音旅

 太棹の魅力に溢れた、道行物を代表する名曲です。花の吉野山を舞台に、義経を訪れる静・忠信主従の道行であると同時に、初音の鼓とそれを恋い慕う狐忠信との心の交流(実は親と子の交流)も描かれています。静の優美な舞、忠信との「雁と燕」の豊かな響きと連舞、様々な文芸に綴られた屋島の戦物語を戦いに参加していない静と狐忠信が伝える趣向の楽しさ、華やかな道行を経て、二人は吉野へと向かいます。

別売りパンフレットより抜粋

道中の華やかさ、曲の美しさ、とても煌びやかな場面です。
一糸乱れぬ三味線は本当にすごいよなあ。
ウグイスの鳴き声と静御前が叩く初音の鼓のハーモニーがいいですね。

鼓で現れる源九郎狐が、本当に生きているかのようで驚きます。
そして、義経から賜った鎧と鼓を義経に見立てて飾っているのが印象的でした。

悪七兵衛景清と三保谷四郎の「錣引き」力比べの再現も興味深かったです。

河連法眼館の段(前半)

 義経は、狐の化身ではない本物の忠信と対面しますが、伏見稲荷で別れてからの話がかみ合いません。やがて現れた静御前の「五度目は不思議立ち、六度目には怖気立ち」という回想が、静に付き従ってきた忠信の持つ神秘性を伝えます。

河連法眼館の段(後半)

 狐の化身である忠信の登場ー静に語る「何ぼ愚痴無知な畜生でも孝行といふことを知らいで何といたしませう…焦がれた月日は四百年。雨ごひゆゑに殺されしと思へば照る日がアヽ恨めしく…」宿業に翻弄され、血で血を洗ってきた義経にとって、この孝心、それも長い年月にわたって持ち続けたこの純粋さは、その心に深く刺さった事でしょう。戦乱の中で渦巻く義経をはじめとする人間の因果と業が、妖力を得た狐の心によって浄化されたのです。義経は狐忠信に初音の鼓を与え、その恩義に感じ入った狐は義経を付け狙う姦計を暴きます。

人間の心が荒んでいて、純粋な心を持っていたのは狐だったというのは皮肉な話ですね。
ただ、義経も自分の境遇と狐を重ね、涙を流す感情は残っていました。

再び現れた源九郎狐に、静御前を守った褒美として初音の鼓を与える義経。
喜んだ源九郎狐が飛び立ち、鼓を叩く場面は感動の一言です。

いわゆる『狐言葉』を話す織太夫さんもよかったです!

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